ホーム > 2003年 第11回原爆絵画展報告集目次 > 劣化ウラン弾による放射能被害の恐怖 |
熊谷憲治
私たちは企画展示の中心である「ヒロシマ市民の描いた原爆絵画」のほかに毎回、ビデオ上映コーナーを設け、核戦争や放射能に関するドキュメンタリーやアニメなどのテープを来場者に観ていただいており、今回は、「劣化ウラン弾の恐怖」を上映しました。このテープは、「厭戦庶民の会」(神奈川県)の野村さんからお借りしたものです。
このテープは、1991年の湾岸戦争の数年後に制作されたものですが、イラクでは戦後、白血病・ガンなどの患者が戦前の数倍から数十倍に急増、とくに被害はいたいけな子どもたちに集中し、さらに経済制裁による医療品不足等のため毎日のように死んでいきます。その惨状の画面は目を覆いたくなります。ウランの放出するアルファ線は発ガン性が極めて高く、劣化ウラン弾がまき散らす放射能が原因とのことです。
劣化ウランはウラン濃縮過程の副産物、つまり核廃棄物ですが、鉛の1.7倍重い金属で、これを爆弾の芯に用いるとその貫通力は飛躍的に増大、とくに対戦車攻撃では厚い鉄板をブチ抜き、戦車はたちまち火車と化します。「劣化」という表現にもかかわらず、爆弾の弾頭に測定器を近づけると環境放射線の200倍の数値を示し、破壊放置されたイラク軍の戦車からも通常大気中の10〜20倍の放射能が検出されています。
その上、ウラン放射能の半減期は45億年だそうですから放射能はほぼ永久にこの世にまき散らかされることになります。このような劣化ウラン弾が人体と地球環境に深刻な被害を与えないはずはありません。
ガン、白血病だけでなく、イラクのバスラ周辺ではリンパ腫等の小児性悪性腫瘍の発症数が湾岸戦前の8.4倍、さらに先天性欠損症(耳や手など身体の一部を欠いた奇形)の子どもも数多く生まれました。また、被害は湾岸戦に従事したアメリカ兵や看護婦にも及び、帰国後にガン、その他の難病にかかり、VTRには手首から先のない欠損症の米兵の子どもが写されており、思わず目をそむけました。こうした悲惨な被害はこの先さらに増え続けることでしょう。ウランは大気中で循環し、今後長期間にわたり放射能汚染地域の人々を苦しめ死へと導くからです。劣化ウラン弾は、「静かなる大虐殺」(Silent Genocide)兵器で、これこそ大量破壊兵器です。それでも劣化ウラン弾は通常兵器扱いで、しかも、米軍は今回のイラク戦争で、1991年の湾岸戦争時より1.7倍も多量に使用しているのです。
VTRの中で一つ印象に残ったのは、「ヒロシマ・ナガサキの人々と連帯したい」と語ったイラク人の医師の言葉です。